「すべてのベンチャー企業は上場を目指せ」

辻 庸介株式会社マネーフォワード代表取締役社長 CEO

松本 大マネックスグループ代表執行役社長 CEO マネックス証券株式会社代表取締役会長 CEO

ベンチャー企業の面白さはすべてを任せてくれること

松本 辻さんはソニーからマネックス証券に転籍してきたという変わり者なんだよね(笑)。どうしてマネックス証券に来たの?

 松本さんの下にいたのは10年くらいでしたね。2003年までソニーにいたのですが、在籍している時に社内募集でマネックス証券CEO室というのがあって、そこに申し込みました。

松本 何人か申し込んでくれた方がいて面接をしたんだけど、最初の人は違うと思い、他に誰かいないかなと思っていたら、辻さんが来たんだよ。しかも、採用が決まって出社1日目にいきなり新卒採用責任者にされてしまったという・・・・・・(笑)。

 ビックリしました。

松本 あの時はさ、社内では「ベンチャー企業なんだから、まだ新卒採用なんて早い」という意見が大半だったのだけれども、僕はどうしても新卒を採用したかった。だから社長決定事項ということで、もう無理やり新卒を採用することにしたんだよ。で、いきなり辻さんが責任者。

 責任者に任じていただく光栄に預かったわけですが、何しろ入社1日目の会社ですからね。何も分からず、役員の方にどうしたら良いのかを聞きに行ったのです。そうしたら、その役員の方にこう言われたのですよ。「私、新卒採用には反対なのです」とね。

松本 あははは。

 正直、困ってしまいましたが、ベンチャー企業の面白さは、すべてを任せてくれるところにあると思いました。

今抱えている問題意識が新しいビジネスを生み出す

松本 その後、辻さんはビーンズ・スカラーシップ(※)でウォートンスクールに行き、戻ってきてマネックス証券に復帰。しばらく後に独立したわけだけれども、マネーフォワードという会社を立ち上げようと思ったきっかけは?
(※)マネックスグループ全従業員を対象とした、海外のMBA・ロースクール卒業資格取得を支援する制度。

 マネーフォワードは、主に2つのサービスをやっています。個人の生活改善に役立つ資産管理、家計簿管理ツールと、中小企業向けのクラウド型会計ソフト等を提供しています。私は独立する前、マネックス証券で本当に色々なことを学ばせてもらったのですが、その時思ったのは、ネット証券会社の誕生によって、安い手数料、世界中の商品や情報を入手することは簡単にできるようになった。ただ、それをうまく使いこなせない、またそういったことを教えてくれるようなユーザーサイドに立ったサービスがないという現実です。その状況を変えるために、クラウドを利用した家計簿管理システムなどを構築して、誰でも使えるような環境を整えていったのです。で、マネーフォワードはお金関係の会社ですから、信用力も大事だと考えて、マネックスからの出資を頂戴したわけです。

松本 今、何か抱えている問題点があるからこそ、新しいビジネスが誕生してくるんだよ。僕がマネックス証券を立ち上げた時は、株式委託手数料の完全自由化という大きな出来事があったわけだけれども、マネーフォワードも、個人のマネーリテラシーを高めるという大きな目標が、目の前にぶら下がっている。それと共に、金融ベンチャーに共通して言えるのは、参入障壁が高く見えること。マーケットは非常に大きいのだけれども、なかなか新規業者が参入して来ない。金融って、高い壁が存在しているんだよね。特にお役所関係。会社を設立する時は金融庁の認可が必要とか、新しい金融商品やサービスを出す際にも、ひとつひとつ申請を出さなければならないとか、とにかく省庁と折衝する案件がたくさんあるので、そこがひとつのハードルになっている気はするね。逆に、そのハードルを多少なりとも下げることが出来れば、金融ベンチャーはさらに増えてくると思うよ。

経営者は常に明るく!

 あとは資金調達面のハードルです。たとえば赤字が続いている企業でも、事業内容に将来性があれば調達できる金融市場の存在が必要です。もちろん、起業する以上は黒字化を目指すわけですが、一時的に大きな赤字を抱えるケースは多いじゃないですか。そういう企業でもちゃんと資金の出し手がいることが大事です。

松本 そうだね。日本にはなかなか、この手のディープなキャピタルの出し手がいないんだよね。本来なら、公開市場を通じて資金調達すべきだと思うのだけど・・・・・。少なくとも非公開市場でこの手の資金調達が可能になる市場は存在していない。

 ということは、出来るだけ早く公開市場に出ていった方がいいということですか?

松本 本来、東証マザーズなどの新興市場は、そういう目的で創設されたんだよ。ちなみにマネックス証券が東証マザーズに上場した時というのは、まだ会社設立から1年4か月しか経っておらず、業績なんてまっ赤っ赤だったからね。社員も4名しかいなかったし。赤字期間が長く、かつ赤字幅の大きな新興企業でも資金調達できる資本市場が必要だね。

 そういえば松本さん、これから米国のベンチャー企業とも連携を深めていくそうですね。

松本 伊藤穰一さんが所長を務めているMITメディアラボってあるでしょ。あそこには新しい技術やアイデアがうじゃうじゃあってね。昔から米国で勉強するのが夢だったから、1年のうち1カ月くらい向こうに行って、最新のデジタル技術を吸収して来ようかなと考えているところ。シリコンバレーがあって、MITがあって、さらにマネックスベンチャーズがあるという三者の関係を構築すれば、米国ベンチャー企業のアイデアを、どんどん日本に持ち込めるようになる。新しい技術を積極的に使えるようになれば、日本のベンチャー企業にも、今以上の幅が出てくるでしょ。

 日本国内に留まっていてはいけないということですね。確かに、マネックスグループだって、ご存じない方もいらっしゃると思いますが、今では日本のインターネット証券会社ではなく、グローバル企業になってきましたからね。

松本 そう。今では世界中に12の拠点があって、売上の3割は米国からもたらされている。インターネット証券会社の中では非常に珍しい位置づけにあるんだよ。その特徴を最大限に活かすためには、たとえば米国のビジネスアイデアを日本に持ってくることに加えて、日本のビジネスアイデアをもっと米国をはじめとする海外に持っていく。特に後者が重要で、これをしっかりやっていかないと、日本のベンチャー企業がダメになってしまう気がするんだ。

 Sansan、メルカリ、グノシー、KAIZEN platformのようなベンチャー企業も、今では積極的に海外展開を図っている時代ですからね。

松本 そう。そしてきちっと公開市場を通じて資金調達できる環境を整えていく。確かに、株式上場に関してはいろいろな意見があって、たとえばオーナー色の強い企業だと、経営者が自分の思い通りに会社を動かすことができないから、上場をあまり良しとしない風潮もあるのだけれども、大事なことは世間にも、あるいは取引先にも、自分の会社がどういう仕事をしているのか、しっかり説明することでしょう。株式を上場すれば、必然的にそうせざるを得なくなるからね。

 でも、上場すれば、経営状態が悪化した時、自分がたとえオーナーであったとしても、経営陣から追い出されることも考えられますよね。

松本 それが大事なんだよ。人というのは、年月が経過すると陳腐化していくものだから、「松本はもうダメだな」と株主が思ったら、解任動議が出来るような環境を整えておく必要がある。自分は追い出されたとしても、会社としては永遠の命を吹き込めるのが、株式の上場なんだ。

 なるほど。他に、ベンチャー企業の経営者として必要なことってありますか。

松本 やっぱり、経営者は常に明るくあるべきでしょう。経営者が明るく振舞っていないと、周りの人がやっていられなくなる。あと重要案件は、夜ではなく昼間決めること。夜はどうしても気分が暗くなりがちだからさ。起業する人には、「常に明るく」という言葉を贈りたいね。

辻 庸介

株式会社マネーフォワード代表取締役社長CEO

2001年京都大学農学部を卒業後、ソニー株式会社に入社。本社経理部にて、AIBO(アイボ)などの部門経理を担当。その後、2004年にマネックス証券に出向(その後転籍)。2009年ペンシルバニア大学ウォートン校に留学。帰国後COO補佐、マーケティング部長を経て、マネーフォワード参画のため退社、代表取締役社長CEOに就任。2014年1月ケネディ米大使より「将来を担う起業家」として米国大使館賞受賞。同年2月ジャパンベンチャーアワード2014にて「起業を目指す者の模範」としてJVA審査委員長賞受賞。

松本 大

マネックスグループ代表執行役社長CEO
マネックス証券株式会社代表取締役会長CEO

1987年東京大学法学部卒。ソロモン・ブラザーズを経て、1990年にゴールドマン・サックスへ。1994年に30歳で同社史上最年少のジェネラル・パートナーとなる。1999年、ソニー株式会社との共同出資でオンライン専業証券のマネックス証券を設立、2000年東証マザーズ上場、2004年には日興ビーンズを買収しマネックス・ビーンズ・ホールディングス(現マネックスグループ)を設立、2005年東証一部上場。現在、代表執行役社長CEO。マネックスグループは、全米5番目に大きいオンライン証券であるトレードステーションを含め世界に12拠点を持ち、全従業員数の7割を北米が占め、ベンチャー投資もしくはインキュベーションとしては、ライフネット生命、ユーザベース、マネーフォワードに対する初期投資がある。前東京証券取引所グループ社外取締役。現カカクコム社外取締役、ジェイアイエヌ社外取締役、ヒューマン・ライツ・ウォッチ東京コミティ議長並びに国際理事会理事、など。

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